05.これで終わりだよ


背中が壁にぶつかる。最初から壁に背中をついていたくせに、今更逃げられないことに気づいた。
目の前の、分厚いレンズの向こうの瞳が強い光を持って俺を見つめている。
背中の痛みとか、掴まれた手首や肩の痛みとか、そんなものはもうどうでもよくて。

ただ、どこかで予感していた、この事態に、驚くほど自分は冷静で。

どんなに追いかけたって手が届かないこと。
繰り返されてた日曜日は決して永遠ではなかったこと。
優しい痛みを伴った特別な日々が気づけばなんも変哲もない日々だったこと。
なくなることを恐れていたものが最初からなかったこと。


だけど、なぜだろう。
重ねられた唇は、耐えられないほどに優しくて。
見つめてくる瞳は、逃げたくなるほどに自分を映し出す。


全部、知っていたよと物語るかれの全てに涙が零れた。


「これで終わりだよ、お前がひとりで悩むのは」
「え」
「お前が何に怯え何に苦しんでいるのか、俺にはわからないけど」
「・・・」
「お前と俺の間にある終わりは、少なくとも今なんかじゃない」
「・・・先輩」
「だから、お前がひとりで悩むのは・・・これで終わり」


しとしとと溢れ出す涙をひとつづつ彼は拭い。
つらつらと俺が零す言葉をひとつづつ彼は口付けて吸い取って。


「お前との間にあるものは、なくなるものなんてひとつもなく、生まれる一方なんだ」



FIN