01.追いつけない背中



ふ、と目を覚ます。重い瞼を何とか押し上げて、覚醒し始める思考を意識しながら天井を眺めた。
見慣れていないというには親しみがありすぎるし、見慣れたというには抵抗がある、天井を凝視する。
天井に沿って視線を泳がせれば部屋に唯一ある窓に辿り着いて、朝日が顔を出していることを知る。

うっすらと日の差し込んだ部屋。どこからか忍び寄るように不安が俺の中にやってくる。
再び、瞼を下ろしてしまう。あわよくばもう一度夢の中に沈んでいけないかと、力を抜く。
それでも、少しづつ、不安は大きくなっていって、俺を夢になんていかせてくれなかった。

なんで、よりにもよって、この日に、こんなに、不安がやってくるのか。
胸の辺りをぎゅっと握り締める。本当は分かっているんだ、この日だからなんだ。

1ヶ月ほどで、また離されてしまった。追いついたと思ったら、いつもこうして突き放される。
年齢なんてどうしようもないことなのに、そんなこと分かっているのに。分かっているのに。
俺はいつからこんなに女々しいやつになってしまったんだろう。らしくもない。

テニスも身長も年齢も、なにも適わないのに。なぜ俺なんだろう。
その疑問だけがぐるぐるぐるぐると俺の頭を駆け巡る。こんな日は走ることに没頭したい。
だけど、今日は、そんなことできなくて。大切な人の大切な日だから大切にしたいのに。
肩を抱く手は、こんなにも優しくて暖かいのに。どうしてこんなに苦しいんだろう。

ああ、愛するってことはこんなにも辛いことなのだろうか。



FIN