04.泣かしてるのはこっちなのに
その瞳は大きく見開かれていることが多い。
だからだろうか、うっすらと張られた水分の膜が厚い気がする。
まっすぐな印象を与える黒い瞳の印象を強くするように。
だが、彼が涙を流すことを良しとしないことは良く知っている。
ただ、どんなに強がろうとも、欲望を迸らせるときと。
耐え難い痛みの始まりに、彼は涙を流す。
彼の意思に反して、生理的に流れる涙なのだろう。
頬を伝うそれに気づくことが出来たなら。
彼は悔しそうに唇を噛み締める。
少なくとも、今そんな余裕はなかったようだ。
涙がこぼれると同時に、濡れた瞳をまぶたが覆い。
限界を訴えるように、まどろみの中に沈む。
驚くほど穏やかで無防備な寝顔を晒して。
頬を伝う、透明の線を描く涙。
その涙を、とても美しいと思った。
名残のように、少し早いままの彼の鼓動を未だ感じながら。
恐る恐る指を伸ばして、熱い頬を撫でるように涙を掬い取った。
涙さえも、少し熱を持っているように感じた。
指を延ばしたときと同じように、その涙を恐る恐る口元に運ぶ。
舐めてみれば、塩気を感じた。
「やっぱり、しょっぱいんだな」
声を投げかけても、もう聞こえていない彼の整い始めた寝息が帰ってくる。
ゆっくりと、ひとつになっていた体を、再び二つに戻して。
ひくりと震えた体を、いとおしく思う。
手を伸ばそうとして、躊躇して、思いとどまってしまう。
寝ている彼に触れることさえ、こんなにも思い通りに行かない。
流すことが出来ない涙が、溜まっていく。
いつ、溢れて、こぼれてしまうんだろう。
FIN