03.逃げてもいいよ逃げられないから


散らかっている部屋の中で、座る場所はおのずと決まる。
最近はそれに対して申し訳なくなる気持ちも薄れてきた。

2人揃って唯一空間を要するベッドに、腰を下ろす。

2人を包む空気に混ざる緊張は薄まることがない。

ベッドに座れば、逃れられないと、覚悟するのか。

そう、考えてみれば、これがあればいいのだ。
これさえあれば、この部屋の存在は肯定される。

徐に、肩を掴み、唇を奪う。
離れて、最初に見つける、黒い瞳。

「逃げてもいいよ」
「…逃げる気なんて、更々ねぇ」

その体を横たえてやりながら、ふっと笑う。
眉間に皴が刻まれた。

君を笑ったわけではない。
自分の言葉を戯言だと笑ったのだ。

「そうか、…かっこいいな」
「舐めんじゃねぇ」
「うん、逃がす気なんてないんだけどね」

ごめん、と小さく謝る。

今更何を謝るのか。
怪訝そうな表情を見ない振りして、ボタンに触れる。

軽い潔癖症の傾向のある彼は、物言いたげに口を開ける。
その口を塞いで、行為を急いだ。

刻まれている皺が深くなる。

今日はずっとずっと、こうしていよう。
少なくとも、君のその皺がなくなるまで。

可愛くない言葉も、意味を成さない声も。
吐息でさえも、逃がしてなんかやらない。

そうでもしないとずるいじゃないか。
俺はこんなにも八方塞りなのに。

fin