02.心まで縛れないことは分かってる


手を、縛ってみた。軽蔑するような視線には少し馴れた。
どうせなら、とことん最低になるべきだ。

開き直れば、楽になるわけでもないのはもう分かっているのに。

「海堂、力を抜けば、楽になる」
「…楽、になんて…なりたくねぇ」

縛られて尚、強く握り締められた拳。
当然、縛られた手首に起きる摩擦は強くなる。
強張った四肢もまた、それを促している。

跡を残したいわけじゃないけれど。
その事実を、喜ぶ自分に愛想が尽きそうになる。

「長袖のジャージで隠れるよ」

それを見るたびに、自分を思い出すだろうか。
それを見るたびに、この行為を思い出すだろうか。

そのときの君は、どんな顔をしているだろうか。

悲しげにゆがめられる表情。
悔しげにゆがめられる表情。
切なげにゆがめられる表情。

きっとどれも外れ。君は、毅然としているだろう。

そこが憎い、なにより愛おしい。

「海堂、そろそろ終わろうか」
「勝手に、終ればいい」

いちいち、言うんじゃねぇ。
そう視線で物語り、目を伏せる。


自由を奪いたいと思った。
手を縛った。
足も縛ればよかっただろうか。
思いつく限り、縛り付ければよかっただろうか。

どんなに雁字搦めにして自由を奪おうとも。
きっと俺は満足しない。

わかっていた。

君の自由を奪いたいと思う反面。
俺は自由な君を愛してしまっている。

もし心を縛ることが出来たなら。
それでも俺は君を愛すだろうか。

君の自由を奪おうとも。


FIN